オンナの毎日

女性たちのこと。

縛られたいオンナ-藍子の場合

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藍子の初めてのデートは、特になにか色っぽいことが起こることもなく、終わった。

楽しかった、と本人は言っており、また2人で会う話もできた、と浮かれていた。

 

しかし、ある日藍子からLINEが届き、実は自分が数日間入院していたのだ、と言ってきた。

 

「え!!なに、どうしたの?!」

 

わたしは、驚いて、聞いた。

 

「この前主人とSEXしていたら、急にお腹に激痛が走って。それから、早く終わればいいからと我慢していたら、いよいよ痛くなり過ぎて、救急車で運ばれた」

 

卵巣の炎症のような、病気になったそうだ。

それにしても、そんなふうにSEXするなんて、わたしには信じられなかった。

 

「そんなの…レイプと同じだよ…」

 

以前から最も気になっていたのだ。

藍子は自分の身体を、大事にしない。

男から愛されたいだとかなんとか、そんなことよりも、自分の身体は自分のものだと、知らないことのほうが、わたしには恐ろしかった。

 

「卵巣が、拒否してる」

 

もはやわたしは、彼女のよくわからない欲望や満たされない感情なんかより、彼女の身体が、不憫でならなかった。

両親が大切に育ててくれた、彼女のお母さんが一生懸命与えてくれた、藍子の身体が、悲鳴を上げている。

 

それでも、藍子はわたしの発言をはぐらかし続けた。

今回はさすがに、夫に対して、言うべきことはちゃんと言った、と話してきたが、藍子の夫から返ってきたセリフに、気を失いそうになった。

 

「しばらく、できないね」

 

わたしは、藍子の夫に対して怒りがこみ上げ、会ったこともない他人の夫を、ぶん殴りに行きたいと、申し出た。

しかし当の本人は、それほど気に留めていない様子だった。

そういう男だから、みたいな感じで。

 

たしかに他人の夫婦の性生活など、わたしにはなんの関係もないことだ。

藍子がそれでいいのなら、わたしがいくら身体を大事に、と言ったところで、なんの意味もない。

その証拠に藍子は、そのような状態でも、不倫(したい)男の話をしていた。

自分から身体を壊して入院してきた、とわたしに連絡してきたうえに、心配するわたしを他所に、向き合うべき問題(夫)を、そこに置きっぱなしにして。

 

藍子は、「アイツとは、もう終わりかもしれない」と言ってきた。

わたしに入院の連絡をしてきた、翌日だった。

身体を壊して、不倫(したい)相手どころの状態でもないであろうに、なにが始まって、終わるのだろうか。

 

聞くと、このたびの入院騒動の顛末を、こともあろうに不倫(したい)相手に全てぶちまけて、夫への怒りを、夫にではなく、不倫(したい)相手に吐き捨てたのだという。

 

「バカだな、言う相手がちがう」

 

藍子は、本当のバカだった。

なにを受け止めて欲しかったのか、彼にどう感じて欲しかったのか、それとも、わたしに対してと同じように、他人をゴミ箱にしたいだけなのか。

一番は、それをして、自分になにか喜ばしいことが起きると、思ったのか。

 

わたしは、41才の藍子が、身体だけでなく、自分の心も満たしていけないことに、同情しはじめていた。

縛られたいオンナ-藍子の場合

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藍子は、まだ始まってもいない不倫について、頭と心をフル回転し、毎日毎日、わたしに話してきた。

LINEをいつ入れたら良いのか、このようなやり取りをしたけど相手はやはり自分に気があるだろうか、など。

夫の愚痴然り、藍子が気にする事柄は、いつでもどうでも良い。

本当に彼女が気にかけるべきことは、他にある。

しかし藍子にとって、今はそれがきっと、必要なことなのだ。

 

藍子はいつも、男からもっと愛されたい、と言っていた。

自分のことを欲されたい、そして自分も欲したい、というようなことも、言っていた。

依存し合い、お互いの穴を埋め合う関係。

そしてそれは、夫ではダメなのであった。

 

実際のところ、わたしは別に、不倫や浮気などの、世間的にアウトといわれる男女の関係について、なんの感情もわかない。

良いか悪いか、正しいか誤っているか、本人たちにしか関係のないことだと、思っている。

 

ただ、41才の藍子の、男に対しての対応が、あまりにも青臭すぎて、それだけはイタイと思っていた。

あまり、他人の価値観や思考を否定したくないのだが、これについては、一応友人として、藍子に忠告してもよいだろうと考えた。

 

とにかく、「俺は、藍子さんいけますから」という、言われて全く嬉しくもない、上から目線の言葉だけを頼りに、藍子は浮かれ、舞い上がっている。

蜘蛛の糸、という話が、ふと頭に思い浮かんだ。

なんにせよ、デートに行くことに胸を躍らせていた藍子だが、そもそも、誘ったのは、自分からなのだ。

 

「藍子は美人なのだから、なにも考えずに、相手を誘惑してこいよ」

 

藍子の顔の造作は、美しい。

目が大きく、口もほどよい大きさで、黙って優雅に見せていれば、少し強気なタイプの美人に、見える。

いつも藍子は、わたしが彼女のことを美人だと伝えると、嬉しそうになんだかわからない謙遜めいたことを言ってくるが、本当は、自分が美人だと知っている。

 

「自信がないから、自分からなんて、いけない」

 

デートに誘っておいて、落とすのは男に任せるのか、という、なんともいいオンナなセリフを言ってきた。

自信もないのに、夫以外の男が自分に落ちるかどうか、試したり、しない。

 

「男に媚びたりするのは、気持ち悪いじゃん。わたしそういうオンナ、大っ嫌い」

 

と、41才の中年の藍子は、言ってきた。

媚びるのと、誘惑するのとは全くちがうと思ったが、とにかく藍子は、きっかけは自分が作るが、男女の関係にするかしないかは、相手の男次第としていることが、わかった。

一応わたしは、同意できなかった事柄のみ、言っておいた。

 

「媚びれるオンナのほうが、可愛いじゃん」

 

男からかどうかは関係なく、人から好かれたほうが、得はする。

ツンケンしているより、笑顔を振りまいているオンナのほうが、そりゃいいだろう。

 

「絶対、無理。そんなオンナ、絶対に許せない」

 

過去になにかあったのだろうか、藍子は頑なに、一部の女性像を、否定してきた。

少し、心がゆるくなれればいいな、と思い伝えた事だったのだが、媚びるオンナ、というのに過剰に反応する藍子に、少しびっくりした。

 

ともかく藍子は、彼女のそのまんまで、勝負するらしかった。

おそらく、藍子はわたしに、相談のふりをして夫以外の男の話を、思う存分したかっただけなのだろう。

 

 

 

 

 

縛られたいオンナ-藍子の場合

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わたしは、藍子に興味があった。

藍子の思考回路を知りたいと思い、家族のことや彼女の過去の恋愛話など、聞けば聞くほど、不可解だった。

まるで、演歌が流れる、場末のスナックにいるような感覚になる。

わたしたちの青春時代は、平成がメインだったはずなのだが、目に浮かぶその光景は、昭和の中盤、バブル前の日本だ。

そして、藍子は幸せそうではなかった。

というよりも、幸せになりたいわけでは、無さそうだった。

 

ある日、突然藍子が言ってきた。

「実はわたし、明日デートするんだよね」

 

藍子の話し方はいつも、相手に「なにそれ?」「どうしたの?」「どういうこと?」などの、質問待ちだ。

わたしはちゃんとルールにのっとり、それらのひとつを、口から発した。

 

「なにそれ?誰と?」

 

藍子は、自分から言い出したくせに、わたしが聞きたくて聞いてきた、みたいな態度で、ことの次第をもったいぶりながら、話し出した。

藍子は、うざい女なのだ。

自分でそう、言っていた。

 

藍子は、夫や自分の生活では足りない欲求を、外に求める。

そのひとつが、既婚者の男たちを交えた、飲み会を定期的にやる事だった。

互いに、自分の家庭の愚痴を言い合い、飲んだくれて、腕をからませながら歩いたりするのが、楽しいらしい。

藍子がデートをする相手は、その既婚者の男たちのうちの、1人だった。

 

「このまえ飲んだ時にね、わたしが一次会で帰ろうと駅に向かって歩いていたら、アイツが走って連れ戻しにきた」

「手首を強く掴まれて、俺は、藍子さんのこといけますから、って言われたの」

 

「俺は、藍子さんのこと、いけますから?」

我慢できずに、わたしは反芻した。

すると、藍子は少し頬を赤らめて、「そう、」と言ってきた。

 

「俺は、いける、と言われてるよ?」

もう一度、わたしは藍子に確認した。

二回同じセリフを言ったことで、やっと藍子は、わたしの目を見返し、笑った。

藍子はわたしの言葉の真意を、半分もわかっていないだろう。

しかし、藍子が女の顔を見せてきているので、嬉しいのだろうな、と思った。

 

「だって、ダッシュで走ってきて、手首をギュッと掴まれて、壁ドンされたんだよ」

 

壁ドンまで、追加されちゃった。

酔っ払いの中年同士の、壁ドン。

 

「きも」

 

うっかり本音が、口をついてしまった。

わたしは、日常的に口が悪く、そんなわたしを藍子は面白がっている。

そのため、この「きも」についても、藍子は爆笑していた。

浮かれているのだ。

 

女が恋愛(なのだろうか、)をすると、感情の上がり下がりの波が、荒れる。

案の定、この日から藍子は、いわゆる情緒不安定になった。

 

 

 

 

 

縛られたいオンナ-藍子の場合

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藍子が、夫の愚痴を言ってきた場合、わたしの立ち位置は、「ツッコミ」だ。

たいがいの場合、藍子にとって気に触る夫の行動は、わたしにとっては、どうでも良い。

夫が買い出しに行くと、不必要なものを買ってくるのがムカつく、自分が洗濯を干したあとに、わざわざ夫がハンガーの幅を直していく、料理をしていると、夫が無言で手を出してくる

など。

 

「買わせてやれよ」

「洗濯全部、やってもらえばいい」

「手を出してきたら、最後まで料理する、という法律ができたと言えばいい」

 

だいたい、こんな感じだ。

わたしがツッコむと、笑いに変換されるようで、藍子はいつも満足そうだった。

 

藍子の夫のことは何も知らないが、妻が些細なことにイラッとし、舌打ちしたくなるようなことは、日本中の夫がしてくる。

デリカシーがない、という言葉が似合うのだ。

そして夫たちはこう言ってくる。

 

「嫌なら、そう言ってくれればいいのに」

 

察してあげられなくて申し訳ない、などという概念はない。

結局、相手(妻)のせいだ。

日本中の夫が、妻からムカつかれる全ての要素は、ここに集約されている。

そして妻たちはこう思う。

 

「言ってもわかってくれないから、もう言わない」

 

これが、日本の夫婦だ。

おそらくずっと、このような調子で歴史を刻んできた。

そしてそれは、令和になった今でも引き継がれており、そのような夫たちについての対応は、妻たちそれぞれに、委ねられている。

この構図は、一見妻たちだけが我慢しているように見えるが、実は「妻たち次第」という、妻が実権が握れるシステムでもあるのだ。

 

夫に、不満を言わず我慢する代わりに、妻から一生愛されず、それに気づかないまま、金だけ稼がせて、死なせるか。

夫が、理解できるように1つ1つ行動を指し示し、少しでも妻の愛を獲得させ、自分の結婚は幸福だったと思わせて、死なせるか。

どちらにせよ、日本の夫は、なにも気づかないまま、死んでいく。

 

すべて、こちらで決められる。

 

藍子の場合、もちろん前者であった。

そして藍子の面倒なところは、それでもなお、夫を愛している自分でいたい、というところだった。

はじめはわたしも、藍子は結局、夫のことが好きなのだと思っていた。

しかし、話を聞くにつれ、それは彼女のありたい像でしかない、と、気がついてきた。

愛おしい、という感情は、聞き手が受け取るものだ。

それを、藍子から感じることが、わたしにはできなかった。

 

もし離婚して、夫が1人になったら、可哀想だと言っていた。

夫婦のSEXについて、ものすごく嫌だが、夫は自分より年下だから、やらないと可哀想だと、言っていた。

 

「娼婦じゃねんだから」

 

SEXについて、わたしは藍子にそう言ったことがある。

 

「えー、だって、それがないと、ダメじゃん」

藍子にとって、自分の身体を愛のない夫に開くことよりも、夫の無駄な買い物や洗濯の干し方のほうが、よっぽど大事なようだった。

 

 

 

 

 

縛られたいオンナ-藍子の場合

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藍子は、最近よく話す女だ。

仕事で出会った。

41才で、わたしの1つ年下。

28才で結婚し、2人の子供と、夫と自分の母親の、5人家族だ。

 

周囲の人間は、彼女のことを知らない。

自分で作り上げている像を、演じているそうだ。

藍子が、自分で言っていた。

周りの人達からしたら、彼女は自分が母親であってもアクティブに外出し、飲み会をし、自由に楽しく過ごしている。

夫のことを愛しており、文句は言いながらも、結局は幸せでしかない。

そのような女だと思われている。

 

ある日、藍子はわたしに、夫の愚痴を言ってきた。

ささいな、夫婦の喧嘩の話だった。

そのような会話は、わたしの周囲では当たり前のことだ。

文句がない夫婦など、この世に存在しないと思えるぐらい、当たり前の日常。

聞き手のわたしは、藍子からの愚痴を、笑いとばした。

 

しかし、それから藍子の愚痴はずっと止まらなかった。

会うたびに、朝から夫の愚痴を、わたしに言うようになった。

藍子は、ずっとわたしに、夫の悪口を吐き捨てていく。

わたしはさながら、「旦那の悪口回収箱」だ。

しかし申し訳ないが、わたしにとってはどーでもいい事の方が多かった。

 

「藍子って、よくそんなに一日中自分の夫のことばかり考えていられるね」

 

わたしからしたら、そんなに毎日悪口がでてくるほど、夫のことを考える藍子のことが、不思議でならなかった。

 藍子は結婚して10年経つと言っていたが、悪口にせよなんにせよ、こんなに自分の夫の話をする女が、わたしの周囲にはいなかった。

わたし自身は、結婚してまだ3年弱ぐらいのものだが、新婚の時期を超えた今、1日の中で夫のことを考える時間は、ほとんどない。

 

「やっぱり、好きなんだね。藍子って、夫のことを。」

 

そう伝えたら、藍子はあまり満足そうではなかったが、「えーそりゃそうでしょ」と、ボソッと言ってきた。

ただのノロケ話を聞かされていたのかと、思っていたのだ、最初は。

 

 

 

 

 

 

いろんな、オンナ

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40を超えると、女というのは、いよいよいろんな形を見せてくる。

自分も含め、40年間生き抜いてきたただけあって、おんなじ形の女はいない。

顔、スタイル、身に付けるもの、仕事、家族、価値観、生き方。

そろそろ、年季の入ってくる、このお年頃。

周りの女たちが、だいぶ面白い。

男たちは気づいていないであろう、この女たちの面白さを、書いてみたいと思った。

彼女たち自身でも、気がついていないかもしれない。

自分が、どれほど個性的で、アバンギャルドで、変態的なところがあるのかを。

 

女は、40からが面白い。

深みをまし、それぞれの形ができ、魅力が増すのだ。

 

わたしの知ってる女たちのことを、少しずつノンフィクションで、お披露目したいと思う。