アメリカのオンナ-悦子の場合
悦子は、他人に自分のことを知られることを、極端に嫌った。
過去にあったことや、自分の考え、恋愛の嗜好のようなことを、そう簡単に他人に教えるわけではないようだった。
その割に、よくわたしには、彼女自身のことを語ってくれていたほうだと、今では思う。
悦子の持つ、柔らかで華麗な雰囲気は、わたしだけでなく、多くの女たちから好かれていた。
上品さと、母性を感じる振る舞いに、年下の女たちばかりではなく、年上の女たちも、悦子のことを知りたがったようだった。
それは、悦子の以前の職場でのことだったそうだ。
「以前の上司がね、わたしのことを、根掘り葉掘り聞いてきたの。そして、SNSなんかも知りたがってきて。他人のプライベートなことを、人はどうして知りたがるのかしら。」
悦子はたまに、なんだかわからない女の行動について、わたしに聞いてきた。
いわゆる、女特有の嫉妬心、対抗心、支配欲、などから生まれる、不可解な行動について。
それは、かつてわたしにとっても大変ミステリアスな事であり、研究すべきことだった。
女たちのエモーショナルな行動は、とても興味深い。
「悦子さんのことが、驚異だったのかもしれませんよ。悦子さんに、興味や好意はもちろんあって、でも、悦子さんは自己開示をしてこないから、より謎めいていたんじゃないですか。知らないことがあると、人は怖いみたいです。」
「えー、でもさ、わたしなんて、本当に特別でもなんでもない生活をしてるんだよ。なんだか気持ち悪いのよ、他人の生活を覗くのが、趣味の人っているんだよ。」
そうかなぁ、と思い、わたしは口を閉じた。
悦子は、何度言っても、人が彼女に惹かれることを理解してくれない。
もしかしたら、本当に他人のことばかり気にするような女も、そりゃいるだろうが、以前の上司はきっとちがうだろうな、と思った。
まぁ、そんな上司の気持ちなど、悦子が気にする必要もないことだ。
大事なのは、悦子にとってそれが不快かどうか、それだけである。
「SNSの、いいね!というのはさ。その人にしかわからないようには、できないの?他の人にも、誰がいいねしたか、わかってしまうのかしら。」
ある日悦子は、こんな事を聞いてきたこともある。
非常に、用心深い人だなと思った。
悦子がどのような付き合いをしているのか、よく知らないが、とにかく、なにか気をつけていかないとならないような、人間関係があるのだなと思った。
「この使い方だと、アップした本人にしかわからないですよ」
わたしは知っていることを、教えた。
どうして?という問いかけはしなかったが、悦子はその答えで安心したらしかった。
以前、SNSのいいねを送る送らないで、揉めたことがあったとの事だった。
かつての、一流の人たちが働く、その場所にて、起こったようだった。
「わたしはたまに、うっかりしてるみたい。人が気にしていることに、気づかないで、知らないうちに傷つけてしまうことがあるの」
「え? そんなことで揉めるほうが、おかしくないですか? めんどくさいっすね、金持ちのくせに」
わたしは、差別的な見方や発言を多分にする。
いわゆるただの、悪口だ。
自分としては、事実を言っているつもりなのだが。
しかし、悦子の周囲には、悦子が気をつけなければならない人間が、いるのだから仕方ない。
それは本人が、繋げてきたものでもあるのだ。
「どちらにしても、皆さん、悦子さんからの賞賛とか承認を、もらいたいのですね。」
なんとなく、気が利いてるような言葉で、まとめとした。
実際、そうなのかなとも、思った。
よく考えてみたら、わたしに、わかるわけがないのだ。
出来る限り、いろんな女たちと話をしていたりはするが、ただの1人として、同じ女は、いない。