縛られたいオンナ-藍子の場合
結果として、藍子が不倫したかった相手は、藍子と距離を置いた。
入院後の不倫したい相手との、悲惨なやり取りのあと、それでも2人は二回ほど、デートしていた。
身体の関係になることは、なかった。
その間、藍子はわたしに何度かLINEをしてきた。
「わたしはアイツに、きつく縛られたい」
藍子はどうやら、プレイを望んでいたようだった。
不倫したいと思っていた男がSの性癖を持っていると感じていた藍子は、飲み会の時から、LINEのやり取りから、デートをしていたときから、その男に、縛られたいと、願っていた。
藍子はわたしに、その男とSEXはしたくない、と言っていたが、プレイはしたかったのだった。
わたしの理解が圧倒的に足りなかった、と思うことが、ある。
女にとっての、SEXと心の繋がりについてだ。
藍子のことを、不可解で支離滅裂なオンナだと感じていたが、藍子はただ、女として生ききっているだけなのかもしれない。
彼女にとっては、どれだけ嫌でも夫とSEXすることは、必要なことで、夫以外の男に身体を求められることは、少なからず自尊心を満たす、道具なのかもしれなかった。
「今度、どこかで休憩したいなと言ったら、遠回しにはぐらかされた」
あれだけ自信がない、と言っていた藍子は、自分からその男に、SEXを誘い出していた。
おそらくそれは、藍子の渾身の一手だった。
「男なんてしょせん、身体目当てかなと思って」
藍子はよく、どこで覚えたのかわからない名言めいたことを、言ってやさぐれる。
そしてそれは毎回、わたしの返事によって、打ち砕かれる。
「若い時はね」
わたしたちは、大人だ。
若い頃のような、自由奔放な身体は既になく、しかしそれの代わりに、経験と知識を増やしてきた。
「はっ、わたし、41だった」
わたしの真意は理解していないだろうが、藍子はいちおう、そう返してきた。
いつか、藍子の心と身体を、きつく縛ってくれる男が、現れるのかもしれない。
藍子がずっと、それを探していけば。