オンナの毎日

女性たちのこと。

アメリカのオンナ-悦子の場合


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悦子は、上品な雰囲気を持ち、優しい笑顔で挨拶を交わしてくる。

年齢よりも若く感じたのは、彼女の見た目だけではなく、あまり社会で労働せずに生きてきた印象が、強かったのかもしれない。

 

悦子とお互いのことを話すようになったきっかけは、わたしだ。

わたしが、悦子に、興味を持った。

新しい職場で出会った彼女は、あまりその場所に馴染んでいるように、見えなかった。

小売業の、接客販売。

わたしたちの職場は、知識や能力がなくても働ける、そんな場所だった。

そして悦子は、そのような場所で働くことが、初めてだと言っていた。

 

「これまで働いていたところでは、考えられないことが多い」

 

彼女は、そう言っていた。

それまでは、よく教育された人ばかりで、お互いに気遣いのできる、一流のたちと、働いていたそうだ。

 

「やっぱり、一流の会社で働いている人たちは、最初から違うんだね。ここにきて、よくわかったわ。」

 

どうやら悦子は、現在の職場には、あまり相入れる人が少ないようだった。

20代から30代前半の女が多いその職場では、40代後半の女に、自ら進んで話しかける文化は、ない。

挨拶もされなければ、笑顔で優しく話しかけられることも、少ない。

そのことを、一流の会社にいる人間とは違う、と捉えたようだった。

 

「まぁ独特ではありますよね。でも話すとみんな、いい子たちですよ」

 

悦子が思う一流が、わたしにはわからなかったが、目の前にいる若い世代の女たちが、悪意を持って働いているように見えなかったため、わたしはそう言った。

だいたい、その一流ではない職場、というのを選んで働いているのは、わたしたちも同じだ。

 

「そうかな。結局、こういう所にしか選ばれないのには、訳があるんだと思うよ」

 

自分も、こういう所にしか選ばれていない、ということだと思ったが、控えておいた。

悦子は年下のわたしに、そのようなことは、言われたくない。

 

上品で優しい印象の悦子に、たまにわたしは窮屈な気持ちになる。

それがこんなときだ。

もうすぐ成人になる息子がいる、という悦子は、シングルマザーだ。

かつてアメリカの人と結婚していた悦子は、よく、「日本は遅れている」と、言う。

でもそれは、アメリカは進んでいる、という意味のようだった。

わたしはその、悦子の言う遅れていることや、進んでいることに、俄然興味を持ったのだ。